はるはるの“ジュリー初心者”日記

ビギナージュリーファンの“はるはる”が、沢田研二様への愛とジュリー学習の過程を語ります。読書メモ「図書館のなかのジュリー」、ライブ感想、初心者の戯言の3本立てでひっそりと運営中。TwitterID @haruandwanko

中江裕司「土を喰らう十二ヵ月」他2冊/謎解きは映画のあとで〜ツトムさんをより深く知る土喰ら三作

図書館のなかのジュリー

ビギナーJULIEファンの“はるはる”が、沢田研二様に関する(図書館で借りた)書籍を、
ジュリーに著しく偏った観点で語る読書メモです
(一般的な書評とは異なることをご了承ください)

 

ジュリー度:★★★(5段階)
中江裕司著「土を喰らう十二ヵ月」
朝日新聞出版,2022年,本体価格700円

 

 さてさて。円盤の発売も決まりジュリーラスタが沸き立っている昨今ですが、みなさんは何回スクリーンのツトムさんに会いに行きましたか?

 普段映画をほとんど見ない私は、重い腰を上げてなんとか2回でした。ただ、原作を読んで大い感銘していたため、原作にないストーリー展開にかなり混乱。2回しか観ていないことも重なり、「あれ?なんで?」と謎に思うことがいくつかあったのですよね。

 例えば…

 

・ツトムが山に住んでいる理由

・真知子と恋人になった理由

・13年間も遺影と遺骨が居間にある理由

・さんしょの年齢

・骨壺を作り始めた理由

・唐突に思えた心筋梗塞

・死神と仲良くなった理由

・湖に散骨しちゃった理由

・ツトムが別れを切り出した理由

・真知子が似合わないスーツを着ていた理由

 

 こんなにあるんかーい!というツッコミは一旦置いておきまして(洞察力なさすぎてすんません)。

 もしかしたらこれらの答えはパンフレットや雑誌には載っていたのかもしれませんが、読んでなかった私は、本書と“骨壺の話”を読んでやっと明らかにすることができました。

 え?「“骨壺の話”ってなんやねん?」というアナタ。そうなんです、映画を見て謎に思った「なんで突然骨壺? なんで突然心筋梗塞? なんで突然死神と仲良くなった?」は、「骨壺の話」というエッセイを読んでようやく腑に落ちました。

 

ジュリー度:★★★(5段階)
水上勉著「骨壺の話」
集英社文庫,1998年,本体価格440円

 

 骨壺、心筋梗塞、死神の謎はこの本で無事解決。

 本書で描かれる「みなさん、さようなら」の一連の流れは、映画のツトムさんよりハードモードでなかなか興味深い。映画のツトムさんがあれをやっていたら、映画館で若干引いたかも(笑)ってほどなのです。

真知子43歳。恋人歴10年。

 さあ、骨壺、心筋梗塞、死神の謎は解けたとしても、私にとって最大の謎は「真知子の存在」です。これは上記の2冊を読んでもわからなかった。膨大な水上の作品のどこかに真知子がいるのかもしれないけれど、今のところは探せていません。

 本書(小説版土喰ら)で明かされた真知子の年齢は43歳。救急車の中で「60代男性」と言われていたツトムさんは68歳だそうです。となると、両者の年齢差は25歳…。

 

親子か!

 

 映画のツトムは甲斐甲斐しく真知子の世話を焼いていて、父親というかおじいちゃんというか保護者ぽいという印象。小説では真知子のことを「かわいい」と表現していたし、他の描写からは真知子を大人の女性というよりも「女の子」として見ているフシがある。

 

なのに…なのに…

やることはやっている!

(あら。興奮のあまりお下品になってしまいましてよ)

 

 映画の中では「多分そうなんだろうな〜」って程度にほのめかされていた男女の関係が、小説でははっきり「あり」と描写されておりました。

 

ちょっと意外だったツトムの人物設定  

 原作を読んで感じたツトムというか水上の人物像は「丁寧に生きる」でした。まあ、文壇イチのモテ男で、若い頃は相当にかっこよく、今も美爺さん。人生経験はもちろん豊かだし、何度も結婚しているし(水上が)、女性に対する欲がゼロだとは思いもしないけれど、私は原作に結構なドリームを見たわけです。山で暮らし土と対話し日々を丁寧に生きる老齢の小説家…存在が精進料理みたいな人(どんな人やねん!)ってドリームを!

 だから映画で真知子に対して色を見せてる場面を観て「あれ?」と思っちゃったわけで。そして小説の中のツトムさんは意外に俗っぽい一面もあり「あああ…精進料理みたいな人じゃなかった…」って思って勝手にショックを受けていました(笑)。一番意外だったのが、真知子へのとあるプレゼントの一節。真知子の行動もびっくりだったけど、私は「ツトムさん、そこでそれ買うんだ…」とかなりびっくりで。また精進料理ドリームが遠方へ。

 つまり…ツトムさん若いのですよ。そう考えると親子ほどの年の差じゃないと厳しいか。そしてもし真知子がツトムと同じ60代なら、あんなに後腐れなくスパッと別れられなかっただろうし、別れる必要もなかったんでしょうしね。

 

 なお、小説を読んでも「真知子と恋人になった理由」は私にはわかりませんでした。

 書かれてはいなかったけれど、ツトムさんを好きになった真知子が猛アタックしたのかな。2人の関係が10年続いているということは、出版社の先輩の八重子さんが亡くなって3年で恋人になったわけです。

 ということは当時58歳のツトムは、33歳の真知子と体の関係を持ち始めたんですね。子供ができたらどうするつもりだったのか? いや作らないようにしていたのか。33歳の女性の10年間をツトムはどう考えていたのか…?

 小説では八重子さんも、さんしょ(モノローグあり)も、そしてツトム自身も、ツトムを「自分勝手な人間」と捉えています。死生観を得てから別れを切り出したのは、真知子を自由にしてあげようと思ったからなんでしょうかね? それならなぜ10年間も真知子を手放さなかったのか? それはツトムが「自分勝手」だからなのか? ツトムのエゴなのか、甘えなのか…?

 このあたりは小説を読んで、さらにわからなくなりました。皆さんならどのように考えるでしょうか? ぜひ教えていただきたいです。

 えー、なお話はズレますが、映画でツトムが真知子に「一緒に住まないか?」と言った時、私は「今一緒に住んだら近い将来介護が待ってて間もなく骨壷2つ抱えることになるよー! 真知子逃げてー!」と思ったことは内緒です…。

 

ナトリウムとカリウムの攻防戦

 原作(水上版)を読んだときに思ったのは「この食事をしていれば太らないだろうな」ということでした。野菜中心においしいものを少量食べるという生活が綴られていて、実際に写真の水上も細いし、撮影中だったと思われるジュリー様も痩せていったように思います。

 小説版は映画よりも食事の場面が詳しく描かれていました。作物を丁寧に大切に食べるツトムさん。このあたりはまさしく「精進料理みたいなツトムさん」なわけで大満足なのですが、反面、それらを読んでいて「そりゃ心筋梗塞になるよ、ツトムさん…」と思ったんですよね。 映画を観るだけではそんなに感じませんでしたが、文字であらためて読むとツトムさんの食生活は結構エグい

 野菜をたくさん食べているのはとってもいいのだけれど、漬物と梅干と味噌がやたら多すぎて「ツトムさん、塩分摂りすぎやん」というのが正直な感想(笑)。

 塩分(ナトリウム)は高血圧や動脈硬化を招くのはご存知の通り。ナトリウム過多な食生活をするツトムさんを想像しながら、おーい!カリウム頑張れー!とひたすらカリウムを応援する私(ナトリウムと拮抗するカリウムは夏野菜に多く含まれています)。

 そしてタンパク質と思しきものは味噌しか摂取していない(味噌は効率よくタンパク質摂取できるようですが)ので、「ツトムさん、タンパク質摂ってー!」と、ツトムさんの心臓の血管を心配するのでありました。

 

お料理と器とツトムの世界が美しい一冊

ジュリー度:★(5段階)
中江裕司、土井義晴著「土を喰らう十二ヵ月の台所」
二見書房,2022年,本体価格1800円

 さあ、景気良くもう一冊関連本を行きましょう。

 映画を観た時、「ん?んん??」と違和感があったのが器です。なんとなくなんだけど、原作の文字だけを読んだ印象は、水上は器にはこだわらないというイメージでした(料理写真には上品な器が使われていますが)。

 でも! 映画のツトムさんのおうちには、作家さんが焼いたようなセンスのよい素敵な器がいっぱいあるわけです。一番印象に残ったのが、炉端で真知子としっぽりやっている時のあの徳利。「ツトムさん!そんな高そうな徳利を直接いろりに入れちゃうの?うわー!」って勝手にハラハラする私。

 ましてや、さんしょのごはんの器も作家さんが焼いた作品みたいやんけー!ってこれまた驚いて(まあ、確かにツトムハウスには、プラスチックに骨の絵が描いてあるような器は似合わないけど)。

 お通夜で胡麻豆腐を入れていた朱塗りのお皿と、夕顔を入れていた器も美しかった…けど、あの大量の器をどこから調達したんでしょう? 葬儀屋さんが持ってきた? いや、そもそも葬儀屋さんは出てこなかったし弟夫妻が持ち込んだわけないし、大工の火野正平さんが急遽貸してくれた? それとも写真屋

 というような、器関係の謎が解けた(朱塗りの器の謎は除く)のが本書です。土井先生に「ツトムがどんな器を使うかということに意味がある。場にふさわしい、料理にふさわしい器でないとあかんのです」と言われた監督が器にこだわり抜いて探した結果が、あの美しい器たちだったんですね。

 本書を読んだ時点では前出の「骨壺の話」を読んでいなかったので、私は水上自身が器を焼く人だとは知りませんでした。水上が器を作るということは、映画に出てきた素敵な器たちもツトムさんが作ったという設定なのでしょうか。丁寧に作られたツトムの料理は、あの器に盛り付け、好きな人とおいしくいただいて完結する…深いです。

 真知子のために点てた抹茶を淹れた茶碗の柄に込められた真知子への思い。あの器もツトムさんが焼いたんでしょうかね。うらやましすぎるんですけど!(ああ、自分で点てた抹茶が苦いぜ…)

 

お料理上手さん! 再現望む!

 本書の最大の読みどころは、ツトムさんのレシピですね。料理本のように分量やら手順が事細かに書いてあるわけじゃないけれど、お料理ができる方ならばこれを読んで再現できるんだろうと思います。

 タケノコの煮物も胡麻豆腐も、しっかりと作り方が載っています。茗荷ごはんのおにぎり(あれ美味しそうだったなー)は、キャプチャーになって解説がついているので、料理のできる方ならばこれを読(略)。

 きれいなお料理の写真とレシピが載ってるし、ツトムの家の見取り図や、台所の写真も掲載されているので、ツトムさんの世界にどっぷりと浸かりたい方はお買い求めをお勧めします。

 

新規ファンに与えられし宝物

 映画や小説について、辛口っぽくなってしまいました。でもこれは偏愛から来るツッコミということでご容赦ください。 私自身は「土を喰らう十二ヵ月」が大好きです。

 ジュリー様72歳からの超後追いファンにとっては、リアルタイムのジュリー様とスクリーンで会える貴重な作品であり、一緒に感じ一緒に考え一編の物語を一緒に生きることができた大切な思い出のひとつ。宝物となる経験を与えてもらったと思っています。

 中江監督、映画に携わったすべての皆様、そしてツトムさん。素敵な作品をありがとうございました。とてもおいしくいただきました!