2023年11月23日17時59分。外から見た東京国際フォーラムはキラキラと輝いていた
キラキラ輝くガラスがまぶしい。2023年11月23日17時59分。横断歩道で信号を待つ私は、目の前の東京国際フォーラムを悄然と見上げていた。
赤信号の残り時間を示す記号は遅々として進まない。
「どうしてこんなことになっちゃったんだ…」。絶望と後悔が入り混じった気持ちのまま時計を見る。
数字が18:00になった。
ああ、万事休す。そう思った瞬間、信号が青に変わった。
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私はよく物を無くす。電車が紙の乗車券だった頃は最悪だった。無意識にどこかに入れてしまう癖があるので、降車直前に衣服のポケット、バッグのポケット、財布の中とあらゆる場所をゴソゴソ探る羽目になる。
それは家の中でもバッグの中でも同じなので、大事なものほど在り処が分からなくなって困る。だからチケットは直前に会場近隣で発券して、手に持ったまま会場に行くことが多い。
今回は土地勘がなく初めて行く東京国際フォーラムだ。だからセブンイレブンの場所をマップで調べ、ホテルからフォーラムへの経路上に何店舗もあるのを事前に確認していた。
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それなのに、あの緑の看板が見当たらない。ま、いいや。そのうち地上に出れば、星の数ほどあるセブンイレブンはすぐに見つけられるはずだ。そう思いながら地下道を歩いていると、もうフォーラムに着いてしまった。
チケットを持たぬままだが、まだ17時30分。これは私にしてはとても早い到着だ。座席で緊張したまま長い時間過ごすのが苦手な私は、着席するのは早くて5分前。だがあの日は「会場が大きいから遅くとも17:45までには来るように」と先輩姉さんから言われていたため早め行動をしていたのだ。
残り30分。これからセブンイレブンを探して発券しても余裕だと思っていた。この時点までは。
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まずフォーラムの地下や地下鉄構内をぐるっと回った。5分以上探し続けるがセブンがない。さすがに焦り始めた。地上に出て周りを見渡してもまったく見えない。頼みのGoogle マップを開くが、右も左もわからない。とりあえず一番近そうな(といっても400m先の)店舗を目指した。
ところがビルに着いても店舗がない。というかビルに入れない。入口を探して一丁角を2回廻るが手掛かりがない。向かい側の皇居の暗闇が怖い。人もいない。時間は刻々と過ぎる。さすがに焦って、人がいたテーラーのような店に飛び込んだ。
「すみません、この辺のビルにセブンイレブンがあると思うんですけど…」とおずおず聞くと、「あー。日祝は休みですよ」という衝撃の返答。「うぇ? あ…ありがとうございました」と力なくお礼を言ったとき、17:48を指す店の時計が見えた。
もうダメだ…。こんなに見つからないなら、18:30は過ぎるだろう。あんなに楽しみにして準備して、何万円もかけて飛行機で来てこの様か。私は何をしに来たんだ?と泣きそうになる。
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でもジュリー様が登場する瞬間の感激を絶対に味わいたい! そう思い直して真っ暗の皇居を背に全力疾走した。もうなりふり構っていられない。信号待ちをしていた若い女性3人組に「ここから一番近いセブンイレブンどこですか? そのあと国際フォーラムに行きたいんです!」と食い気味に尋ねた。
「え?え?」と顔を見合わせる女子たち。鬼気迫るおばちゃんに圧倒されたのだろう。各自自分のスマホで一斉に検索を始めて「一番近いのはA店だけどきっと迷う。遠いけどB店がいいです」と教えてくれた。しかしマップではB店まで片道7分…この時すでに17:50。B店で安全策を取るか、ハイリスクだがA店にするか…答えは明白だった。
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次の信号で若い夫婦に「A店までの最短経路を教えてください!」とスマホの地図を強引に見せた。夫はおばちゃんの気迫に完全に気押されていたが、妻が「パパわかるー?」とかわいく言うと、気を取り直して悪戦苦闘しながらA店があるビルの位置を確認してくれた。
ビルの近くに立っていた銀行の警備員さんは「次の角を右に行って階段で地下1階に降りてまっすぐ」と丁寧に教えてくれた。この時点でようやく「え?地下?」と知る私。階段を全速で駆け降りキョロキョロすると、ようやく7の文字が見えて力が抜けた。
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チケットを発券する間も早口で道順を尋ねたあと逆方向に走り出した私に「そっちじゃない!こっち!」とゼスチャー付きの大声で教えてくれた店員さん。
走りながら道を訪ねた私に「目の前ですよ、地上でも地下でも、すぐそこ。地上に出たら信号渡りますけど」と教えてくれたビアバーで働くお兄さん。
2人に見送られ、この日さんざん地下で迷子になった私は地上ルートを選択した。
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18:00ちょうど、フォーラム前の信号を渡り始めた。白いスーツのジュリー様が登場する姿が頭によぎる。絶対に見たい絶対に見たいと、開演押しを願う。
大階段に着き、走りながらチケットを差し出す。荷物検査担当が「おかばんの口を開け…」と言いかけたが、鬼気迫る私の顔を見て「あ…どうぞ」とそのまま通してくれた。
エスカレーターを駆け上がりながら、スタッフさんが見えるたびに進む方向を確認して時間短縮を繰り返し、ついにドア前に到着。
重たいドアを開けると、明るい客席が目に、軽快なBGMが耳に、いっぺんに飛び込んできた。
「ま、間に合った…」
18:03。無人のステージに立つ赤い旗が「よかったね」と言ってくれたような気がした。
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冗長な駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
あの日は本気でパニックになりました。間に合わないと何度も諦め、つくづく後悔。それでも何人もの方に助けていただき、ここ10年くらいで一番の全力疾走をして奇跡的に間に合い、登場するジュリー様のお姿を目にすることができました。
ただし、喉カラカラ・汗ダラダラだったし、直前までの焦りで気持ちが切り替わらずライブに没入できなかったのが残念でたまりません。自業自得なのでありますが。
そして一番申し訳なかったのが、会うことを約束していた先輩姉さん。長時間待たせてしまった挙句、結局会えずに心配とご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありません。でももし姉さんと会う約束をせずに直前入りしていたら、18時30分は過ぎていただろうと思うので、申し訳なさと同時にありがたさが込み上げて来ます。余裕ぶっこいて直前入りなんてもうしないと反省しております。
それにしても、東京どまん中のセブンイレブンの見つからなさよ!です。セブンなんて適当に歩いてりゃすぐ見つかると思うのは、大きめの田舎に住んでる者ならではの考えと痛感しました。本物の大都会に路面のセブンはない!とあの日の私に教えてあげたいと思うジュリー初心者なのでした。おわり。
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赤信号の残り時間を示す記号は遅々として進まない。「どうしてこんなことになっちゃったんだ…」。絶望と後悔が入り混じった気…#ジュリー初心者 #沢田研二
— はるはる (@haruandwanko) November 26, 2023
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