寺内小春「ドラマシナリオ はね駒」/松浪先生の“精悍な目”の意味を考えてみた
図書館のなかのジュリー
ビギナーJULIEファンの“はるはる”が、沢田研二様に関する(図書館で借りた)書籍を、ジュリーに著しく偏った観点で語る読書メモです
(一般的な書評とは異なることをご了承ください)
2020年3月から再放送されていた「はね駒」も大詰めですね。そしていよいよ来週に迫った松浪先生の再登場! 髪型が女神ver.に変わっているようですが、それも楽しみでございます♡
ところで、松浪先生が一旦退場した48話で“あのシーン”が物議を醸したことを覚えていらっしゃいますか? 布団の上で松浪先生がおりんちゃんの手をグイッと引き寄せ、男らしい目でおりんちゃんを見つめたあのシーンですよ! あのシーン!
みなさんはあれをどのように解釈されたのでしょうか? 私も、あーでもないこーでもないと、いろいろ考えまして、あの時自分なりの結論というか仮説を立てたんですよね。それがこれ↓
仮説① 松浪先生、一瞬気が迷った…??
ひどい仮説だ(笑)。だからどうしても納得できなくてモヤモヤしていました。松浪先生はそんな人じゃないよなぁ…という思いがずっとありまして。それでこの仮説を否定する材料を探すために、シナリオを読んでみたのです。
ところが!! シナリオを読んだら、余計わからなくなった…( ;∀;)
その理由は後述しますが、それでドラマをもう一度(松浪先生の登場シーンだけ)見直してみたんですね。そして無理やり出した結果がこれ↓
仮説② 心の節度の確認
チョット何言ってるかワカラナイ意味不明っぷりですみません。それでは読書メモ+はね駒48話考察を始めていきます。よろしければお付き合いください。
なお、ドラマを見返した際の感想も1話から連載でツイートしていますので、こちらもよろしければどうぞ→第1回の感想https://haruandwanko.hatenablog.com/entry/2020/08/30/153900)
シナリオのセリフと、ト書きから見えてきたこと
シナリオ集はセリフとト書きのみというシンプルな構成。松浪先生出演回は、「第1話/りんとの出会い」、「第24話/集会場での弘次郎との会話(武士の過去をカミングアウト)」、「第48話/深夜のりんの看病〜学校を去る場面」の3つが掲載されています(48話のシナリオは1回分が47・48話の2日に分けて放送されていました)。
では、あの問題のシーンをシナリオで振り返ってみましょう。
松浪の家・座敷(夜)
松浪……目をあけ、りんを見る。……かぶりを振る。
松浪「帰りなさい」
りん「先生!」
松浪「親にそむいてはいけない……お母さんのおっしゃることを大事にしなさい」
強い目で、まっすぐに松浪を見るりん。
りん「……わたス、今……親の言うことよりも、先生のほうが大事です!」
松浪……声をのんで……。
(中略)
強い目で、松浪をみつめているりん。
無言で、見返している松浪。
りん「先生……目をつぶってください」
松浪「……」
りん「そしたら、わたスのこと、見えないでしょう?(中略)見えなくて、声が聞こえなかったら、いないのと同じでしょう?」
りん、火鉢のそばに行き、座る。
りん「(中略)……先生、目をつぶってください。ここには誰もいません……」
少し笑って、松浪を見るりん。
松浪……りんを見ている……床の上に起き上がる。
りん「あ、だめです! 起きてはだめです!……だめ!先生」
駆けより、床に寝かそうとするりん、その手を……松浪の手がつかむ!
思わず松浪を見るりん。
無言でりんをみつめる松浪の目……りんが初めて見る精悍な男の目……。
りん「……」
松浪「……」
りんをみつめる松浪、一瞬、苦しげに目をそらし……また、目を戻す。
精悍な光は消え、例の微笑がうかんでくる……。
松浪「いない人間が、手を出したりしちゃだめじゃないか……」
りんの手を、静かに押し戻し……床に横たわり、仰向いたまま目を閉じる松浪。
りん「(声にならず)先生……」
目も唇も、固く閉じたまま、横たわっている松浪……りんの存在を拒絶するように……。
キャー! 松浪せんせー!!♡♡♡♡♡という感想は置いておいて…
・精悍な男の目
・「苦しげに」目をそらす
・りんの存在を拒絶
この3点を読んだとき、ほんとわからなくなりました。仮説①を肯定せざるを得ないじゃないの?と途方に暮れたので松浪先生の人物考査をしてみました(ひどい仮説①を否定したくて何でもやった)。
松浪毅さん 人物考査
・キリスト教の宣教師(敬虔なクリスチャン)
・東北女学校の教師(教育者としては厳しい一面を持つ。生徒からの人気は絶大)
・元武士。長州征伐に武士として参加していることから、明治24年現在の推定年齢は40歳前後
・結婚していたが妻と死別。臨月に胎児とともに亡くしている。妻子を亡くしてから約15年経過(子が生きていれば15歳のおりんと同じくらい)。妻のことを「愛していた。死んでからでは遅いんだ」と語る。
・現在独身。身の回りの世話をしているばあやさんは入院中
・ルックスがとんでもなくよろしい
【性格】
・人格者。清廉潔白、正義の人、実直、温厚(教育者としては厳しい)、優しい
・海外の文化やキリスト教に影響された価値観を持つ(女性を尊重、平等など)
・アガペー(神の愛)に基づき行動する。神を畏れて人を怖れず
・りんへは教師としての愛を注いでいる(男女間の愛情表現はゼロ)
こんな感じでしょうか。アガペーとはざっくり言うと「神が人間を愛する愛」です。キリスト教っぽく言うと「隣人愛」というやつ。マザー・テレサの行動をイメージするとわかりやすいでしょうか。ちなみにはね駒では、松浪先生も鶴次先生もアガペー体現の模範者のように描かれています。
この人物考査から考えると、松浪先生があの場面で一瞬でも二瞬でも気が迷うことはあり得ない、やっぱり…。聖職者で、教師で、死んだ子が同じ年。しかも人格者で清廉潔白すぎる性格。もしドラマの中で先生の俗っぽい一面(実は女好きみたいな)が語られたならまだしも、それもまったくありませんでした(俗っぽいのは角煮を食べた指をしゃぶる可愛さ満点の場面だけだったし…)。
そう考えると、やはり仮説①は否定したいのですが、引っかかるのが、「おりんちゃんの手をつかんで引き寄せた精悍な男の目」なんですよね。
そこで苦し紛れに立てたのが、仮説②の「心の節度の確認」でした。
仮説② 「心の節度の確認」の検証
節度とは?
47・48話のキーワードになるのが「節度」かと思いました。
母ちゃんは「物事には節度っつーもんがあんだ」と言い、松浪先生も何度も何度も何度も「帰りなさい」と言っています。つまり大人2人は、りんに対して「節度を守りなさい」と諭している。でもおりんちゃんは「親の言うこと(節度)より先生が大事」と言い切り、松浪先生はここでやっとおりんの恋心に気付くわけです(先生、にぶいにも程があるよ…)。
このシチュエーションは「15歳の生娘が寄宿舎を抜け出し真夜中に1人で40代独身教師の家に行き、恋心を告白して枕元に一晩中座っている」という非常におそろしい状況です(-。-;)。節度の逸脱っぷりを数値で表せば500%くらいでしょうか(松浪先生以外の男だったら、秒で手篭めにされてるよ…)。
だけど先生が何度も何度も何度も「帰りなさい」と言ったって、この子は絶対聞き分けないんですよ。覚えていますか? ドラ猫がお魚くわえて行っちゃった時だって「絶対帰らね!」と粘ったんですから…。
りんの恋心を思いやる優しさ
「先生のほうが大事」と言われ、声をのんだ松浪先生は、しばし切なげな表情で天井を見つめています。体調が悪いのにこの間さぞグルグルグルグルいろんなことを考えていたでしょうね。生徒に恋心を抱かせてしまった自分の至らなさを責め、自分の何が悪かったのかを考え、恋心に応えることができない自分はこの教え子に何をしてやれるかとか…。
松浪先生は今まで幾度もおりんちゃんに「自分の信ずる道を行きなさい」と説いてきました。そして今、おりんちゃんは自分の意思で、「後悔したくない」という自分の信じる行動をしています(内容は褒められたものではないけれど)。これは教師としては喜ばしいことかもしれません。
先生は立場上・道徳上恋心に応えることはできないし、この時点で学校を去ることを半ば決心していたかもしれません。だから先生は、おりんちゃんの信念と恋心に免じて、部屋にいることを許そうとしたのでは?と考えました。それは神の愛を体現する先生の、せめてもの思いやりであったとも思うのです。
節度の確認作業
とは言え、真夜中に教師と教え子が2人きりはさすがにどうよ?って話ですよね。だから松浪先生は確かめたんだと思うんです。おりんちゃんの心の節度を。先生に手をつかまれ精悍な目で見つめられた時、心の節度がなければ「先生!わたス、わたス!」と言って先生に抱きつくか(私なら確実にそうする)、もしくはされるがままでまったく抵抗しないか…。
だけどおりんちゃんは、手を引っ込め驚いたような目で真っ直ぐに先生を見つめました。ここで先生は「心に節度があるから、一晩置いてもよかろう」と判断したのかなと。この時やえさんもそっと先生の家を出て行っているので、母ちゃんも娘の心の節度を信頼したんだなと思いました。
ちなみにこれは蛇足なんですが、あのシーンはもしかしたらちょっと脅かす意味もあったのかなぁ?なんてチラッと思ったんですよね。「節度を守らないとこんな怖い目に遭うんだぞ!」という脅し(笑)。でも翌朝、先生を怖がる様子がまったくなかったからこれは違ったようです。
苦しげに目をそらす
そしてわからないのがこれです。なぜ苦しげな目をしたのか?
おりんちゃんがあまりにも子供だったからなのか、純粋に自分を想ってくれる心に応えられない申し訳なさなのか、恋心を抱かせてしまった自分の至らなさゆえの苦しさなのか、真っ直ぐな瞳がまぶしかったのか、手をつかむという行為の愚かさを恥じたのか、節度を持っているのか疑った自分を責めたのか…。
これは私には難しい…。みなさんのご意見をぜひお聞きしたいところです!
りんの存在を拒絶
そして最後の「拒絶」です。
これは文字通りの拒絶(りんを部屋に置くために、いないものとしているため)と、松浪先生側の節度を示しているのか…? 「部屋に誰もいない、誰もいない、誰もいなーい!」という状況にするための拒絶。話しかけるなオーラ出しまくり状態でしょうかね。
もうひとつ考えられるのが、「今もこの先も、りんの恋心に応えることはできない」という“拒絶”を表現しているのかもしれません。これはちょっと切ない解釈だからツライのですが。
夜明けの空(翌・早朝)
松浪の家・座敷
(中略)
松浪「ゆうべは、部屋の中に誰もいなくて、静かでよく眠れた……(りんを見る目が、笑っている)」
りん「……(うれしそうに、笑ってうなずく)……」
松浪、白く朝もやの流れる庭を見る。
りんも、並んで庭に目をやる。
松浪「知らないうちに庭が、すっかり秋になってしまった……このところ、ゆっくり庭を見るひまがなくて……」
りん「お忙しかったから……」
松浪「いくら忙しくても、庭を見ることを忘れるような……季節の移り変わりにも気がつかないような……そんな人間になってはいけないね……」
りん「……」
松浪「自分が、そんな人間になっていることに気がつかなかった……己惚れていたんだね」
(中略。学校を辞めることを告げる)
松浪「もう一度、自分という人間をたしかめてみるために、ね」
(中略)
りん「あんなくだらないうわさなんか、誰も信じていません!(以下略)」
松浪「しかし、そういうおぞましいうわさをたてられたという、そのことに僕はショックを受けた。そのうわさがひろまったという事実に呆然としてしまった。……そんなうわさをたてられるようないかがわしさが、そんなうわさがひろまっていくような、そんな軽薄さが自分のなかにあったということに僕はうろたえてしまった……(以下略)」
(中略)
松浪「もう一度、勉強をしなおし、主の御教えを人に説くにふさわしい人間になるために、僕は学校をやめる」
(中略。英国へ勉強に行くと告げる)
りん「(叫ぶ)先生!……外国へ行ってしまうんですか!」
松浪、悲痛な思いをこらえた微笑でりんを見る。
松浪「だから、残念ながら、君が塀を乗り越える姿はもう見せてもらうことができないね」
りん……呆然と……。
この場面は、前項のように屁理屈をこねくり回さなくても大丈夫そうだぞ(笑)。
「季節の移り変わり」は、りんの気持ちや自分を取り巻く環境の変化だと思います。恋心を抱かれていたことにも、クーデターを起こさせるような人間に思われていたことにも気づかなかった。自分の中に「いかがわしさ・軽薄さ」があったから、恋心を抱かせてしまったと思ったんでしょうね。
神の教えを実践し、周囲の人々を愛してきた(と思っていた)自分。信仰を通して人間性を高めることに努めていた(と思っていた)自分。それがすべて自惚れだったと気づくって…これ相当落ち込みますよ。本人にしたら痛恨の極みすぎる。
エジンバラ行きは、前から迷っていたと思います(42話で「2つの道を前にして迷う私の弱さをお救いください」と神に祈っている)。教育者として生きるか、信仰を深めていくかの2つの道。
クーデターの噂を知った時点でも決断はできなかったけれど、おりんの恋心を知ったことで自分の至らなさを痛感し決断に至ったんですね。だからおりんとの邂逅は先生の人生にとって相当に大きなものだったと思います。
おりんちゃんの存在が松浪先生の人生に影響したと言えば美しいけれど、私には互いにダメージが大きい痛烈な展開に見えて物悲しく思えるんですよね…(おりんちゃんはあっさり先生のことを忘れたけれど…)。
素直な感想を少しだけ
おりんちゃん、落ち着け。病人の耳元で騒ぐな、寝てる病人を揺すり起こすな。先生に向かって「もし死んだら」とか言うな。「先生が死んだら後悔する」は先生の過去の傷に塩塗る行為ってわかってる?
教え子を退学させたくなくて夏期講習やったり、転校先探しに奔走した先生に向かって「退学になってもかまわない」と言うな。先生悲しむでしょ。そして自分の感情だけを押し通すな、松浪先生の立場を思いやれ。だけど松浪先生に手をつかまれたなんて羨ましすぎるぞー!
松浪先生、神の教えに基づいて隣人たちを平等に愛するあなたは素晴らしい。だけど無自覚すぎます。自分のルックス考えて。その美しさで優しさ振りまいたら、すべての人があなたに恋い焦がれるのは火を見るより明らかです!
そしておりんちゃんの恋心にずっと気づかないなんて、にぶすぎる。あれだけ好き好きオーラ出してる衝動性の高い女の子に個人的に用事頼んだり、真っ先に自分の気持ちを話したりするのは迂闊すぎ(おりんに本心を話す場面では主語が「僕」になるから嫉妬したわ←笑)
でも「主の教えを説くにふさわしい人間ではない」なんて落ち込まないで。ミステイクがあったのは確かだけれど、その失敗は松浪先生の生き方全てを否定するものにはならない。先生に救われた人は多かったはずだから。
身も心も美しい松浪先生がステキすぎた♡
最初はちょっとふっくらしていた松浪先生も4週目あたりからお顔がスッキリして、着物姿も細っそーで、とにかくかっこよくてステキでありました。若干人間くささに欠けるほどの清廉潔白すぎる人物だったけれど、身も心も美しくて素直に「ステキ…♡」と思える少女まんが的キラキラキャラが本当にステキでした♡
さあ、最終週での先生とおりんちゃんはどういう再会をするのかな? 楽しみでたまりませんが、長々と書いてきたこの文章が全否定されるような内容だったらどうしましょう(笑)。
そうそう。5月の放送直後に、わたしこんなことして遊んでいました(バカだね〜)。
これは美しき姫が夜這いされ
— はるはる (@haruandwanko) May 17, 2020
姫「なぜこんな無茶を」
りん「後悔したくないからだ」
姫「お帰り下さい」
りん「節度?関係ねぇ」
姫「お帰り下さい」
りん「目を閉じろ!一晩中離れないぜ」
姫「…」
という状況で絶望し諦め
そっと目を閉じた場面ですか?#はね駒#松浪先生 #沢田研二#ジュリー pic.twitter.com/X7nDApUG2O
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#はね駒 48回の松浪先生
— はるはる (@haruandwanko) September 5, 2020
りんの手をつかみ“精悍な目”をした松浪先生…その意味を考えてみた。
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